『人形の家』上演台本+アンケート 『人形の家』 作・演出 井上新蔵 人形の家 女 リコ 母 兎 ※上手に母、背を向けて台所仕事をしている。下手には、箱に座った兎と、箱に倒れているリコ。下手から、女。兎、木槌を鳴らす。 母: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 女: 別に、どうってこともない、毎日毎日、繰り返す日々…たいしたこともない、 面白みのない、ただ、なんとなく、視界が、世界が狭いような、 バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないような、私には、関係がない… 母: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン…お料理、お料理、ああ、 忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい 女: …ただいま 母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい。 女: おやつって、もう9時だってのに…子どもじゃないんだから、いらない 母: まぁまぁ、この子ったら、子ども部屋で暮らしてるうちはこ・ど・も、よ。 あなたのお部屋、ちょっとは片づけなさいね、おもちゃに、お人形に…ほら、 なんていったかしら?あなたのおきにいりの、赤い屋根のお家の、どこに行くにも いつも一緒だった、あの子…そうそう、リコちゃん! ※リコ、ぴょこっと動く。 女: 嫌な言い方、片付けるわよ、そのうち 母: そう、片付けるの 女: でも、今日はもう疲れてるから 母: そう、疲れてるのよね 女: だから、家でくらい、好きにさせてよ 母: そう、好きにしたいのよね、好きに ※女、中央の椅子に座る。 ♪テープを巻き戻すようなねじれの音。リコ、母、回転しながら着席。 兎: (木槌を鳴らす)これよりぃいいい!第2186回ぃ!!人形裁判をぉおおお!!! 始める!!!! 女: 人形裁判? 兎: ぼうと…冒頭…冒頭ちん…冒頭ちんじゅちゅ!! 母・リコ:ちんじゅちゅ、ちんじゅちゅ?(ヒソヒソと話す) ※兎、木槌を鳴らす 母: 被告人、みっちゃんは、令和8年〇月〇日午後〇時〇分ころ、自宅台所において、 母手作りのおやつであるフルーチェを蔑ろにし、自身の子ども部屋に引きこもった ものである。罪名及び罰条、フルーチェの尊厳及び冷蔵庫での保存環境維持等に関する法律第66条違反、フルーチェの遺棄によりこれを死傷させる行為等の処罰に関する法律第6条。以上であります 女: ないでしょ、そんな法律!! 兎: あなたには黙秘権があります 女: バカみたい、一体なんなのよ 兎: 発言の内容は、あなたに有利なことも不利なことも、すべて証拠として使われます 女: どうだっていいわよ…フルーチェ食べなかったのが罪? 母: 証拠写真をご覧ください 女: 冷蔵庫? 母: 被害者の最後の姿です 女: ただの冷えてるフルーチェじゃない! 兎: びいいいいん!!ぷる、ぷる、ぷる、ぷる… 女: なによ 母: でたわ!裁判長の降霊術よ! リコ: 被害者の魂が裁判長に!! 兎: ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…僕は、フルーチェ…た、べ、てよぉ…た、べ、て、 ほしかったよぉお…ガクッ 母: ううっ リコ: かわいそうに 女: フルーチェ!食べ物でしょ!!魂ないでしょ!! 母: 裁判長!差別発言です 兎: この、ご時世に!! 女: あーもううっさい! リコ: 裁判長、このように、被告人は心神喪失の状態にあり、刑事責任能力はありません 兎: そのようにも見えますね 女: バカにしてる 兎: バカにしてる? 女: だいたい、私、フルーチェ嫌いなのよ リコ・母:おお…! 女: 甘すぎるし、ドロドロしてるし 兎: 被告人、これ以上フルーチェの人権を侵す発言は、やめなさい! 女: そもそも、あれ、何?デザートなの? 兎: 被告人! 女: なんで固まるの?中途半端でぐちゃぐちゃで、気持ちが悪い… ※リコ、女の口を塞ぐ 母: 裁判長!ただいまの発言のとおり、被告はフルーチェを貶め、一切の反省もありま せん!犯行は計画的で残虐であり、被害者の遺族も処罰を望んでいます。 以上の点から、被告人を死刑に処するのが相当であると考えます!! 兎: 弁護人、何かありますか リコ: 裁判長…無罪です! 兎: (木槌を鳴らす)第2186回人形裁判、判決!死刑!! ※兎、母、退場。 リコ: ばかね、死刑になっちゃった 女: 死刑? リコ: そうよ、死刑、あなた、死刑、わかる? 女: バカにしないでよ リコ: どうして?あ、もしかして、死にたい人?あなた、死にたい人? 女: 死にたかないわよ、多分…でも リコ: でも?でもやっぱり、死にたい? 女: どうだろう…もしかしたら、もう死んでいるのかもしれない リコ: でも、ここにいるわ 女: 私、ずっと、どこにもいないの。いつも、なんとなく、視界が、世界が狭いよう な、バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないような、私には、関係がない… リコ:いるわよ、ここに 女: そういうことじゃなくて リコ: なんで?じゃあ、あなた、なんで、ここにいるの? 女: え? リコ: あたし、リコちゃん。あたしは、ずっと、ここにいるわ 【リコ】 ※兎、出て木槌を鳴らす。母、出て上手で背を向けて台所仕事をしている。 母: (木槌の音に重ねて)トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン… お料理、お料理、ああ、忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい リコ: あらいやだ、ママったら!あたし、リコよ、リコちゃん! 母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい。 リコ: フルーチェですって!ああ、フルーチェ!!なんて素敵な日なの、もしかし て、今日はリコの誕生日だったのかしらん、それとも国民の祝日? ママ、だあい好き!! 母: まぁまぁ、この子ったら、こ・ど・も、ね リコ: そうよ、リコは永遠の11歳、小学五年生だもの!こ・ど・も、よ! 母: そう、子どもはフルーチェ、好きよね リコ: 好きよ、ママの次に、だあい好き!リコ、ママ、だあい好き!! 母: そう、ママもリコちゃんのこと、だあい好き! リコ: だから、ママ、リコのママになってくれる? 母: そう、ママ、リコちゃんのママになるのね 女: え? ※♪テープを巻き戻すようなねじれの音。リコ、母、停止。 兎: (木槌を鳴らす)さて、いかがです?なかなか、いい感じじゃないですか? 女: そんなの、ずるい 兎: ずるい? 女: 私、あんなじゃ 兎: ああ 女: あんな、バカみたいに 兎: じゃあ、やり直します? 女: え? 兎: 被告人、何かありますか リコ: そんなぁ!裁判長…あたし、無罪です! 兎: (木槌を鳴らす)判決!死刑!! ※兎、母、退場。 リコ: ばかね、死刑になっちゃった 女: 死刑? リコ: そうよ、死刑、あたし、死刑になっちゃった。わかる? 女: あなたが、死刑? リコ: そうよ!あ、もしかして、死にたい人?あなた、死にたい人? 女: 死にたかないわよ、多分…でも リコ: でも?ちょっと、はっきりしてよ 女: どうだろう…もしかしたら、もう死んでいるのかもしれない リコ: まるで他人事ね 女: そう、他人事みたいに…私、ずっと、どこにもいないの。いつも、なんとなく、 視界が、世界が狭いような、バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないよう な、私には、関係がない… リコ: ああ 女: わかる? リコ: じゃあ、あなた、きっといないのよ 女: … リコ: あなた、いないのよ 女: … リコ: あたし、リコちゃん。あたしは、ずっと、ここにいるわ。あなたは、あら、 どこに行っちゃったのかしら? 女: …どうして私ばかり裁かれるの? ※女、兎を見る。 兎: 私もね、死刑だったんです。第88回人形裁判、第188回人形裁判、 第288回人形裁判、そこから18回、全部、死刑 女: じゃあどうして生きてるの 兎: 逃げました 女: え? 兎: 私、逃げたんです 女: どこに? 兎: 裁判長席に 女: 裁判長なら、死刑をやめてよ 兎: それはできません 女: どうしてよ 兎: だって裁判長ですから 女: … 兎: 裁判長が、死刑をやめたら、なんになると思いますか 女: え? 兎: ただの、兎です。ピーターラビットでも、ミッフィーでも、マイメロディですら ない、ただの、ピンクの兎です。気味が悪いでしょう?…そう、気味が悪い… (木槌を叩く)第2188回人形裁判、被告、私、判決!死刑!! ※♪「Entry of the Gladiators」リコ、母、兎、順に振り向き、手に頭を持っている。 曲にあわせてお互いの頭を被せあう。 女: ねぇ、私、どこ?ねぇ、ねえったら! リコ: あなたの名前、なんだっけ? 女: …みっちゃん? 兎: 本名は? 女: … 兎: 本当の、名前は?苗字と、名前 女: だから、みっちゃん…私の名前…名前、なんだっけ? 母: みっちゃん! リコ: みっちゃん!! 兎: みっちゃん!!! ※女、母、リコ、兎、退場。兎出てきて。 兎: みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん⋯みっちゃんって、誰なんでしょう? ひょっとしてあなたが、みっちゃん?ああ、もしかして、こちらが、みっちゃん。いや、しかし、あなたがみっちゃんで、私がみっちゃんでない、とも言い切れない。私は、本当に、私、なんでしょうか?あなたは、ひょっとして… ♪「私とかくれんぼ」 私のクニではこのごろ 他所様の頭が大流行 ちょっと他所様をのせてはみては やれそれ、あれこれ、どうだのこうだの 他所様の頭で考え遊ぶ そのうち、ひょっと、頭を無くして 私はだれやら、貴方はだれやら ここはどこやら、彷徨いくれる ピアノをひけば長調が短調に 蝶々が丹頂鶴に 仕方がないものだから ああ、南無さんで、ぐるっと一回転 さてはて、私の頭は、どこのっかった 【兎】 ※兎、出て木槌を鳴らす。母、出て上手で背を向けて台所仕事をしている。 母: (木槌の音に重ねて)トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン… お料理、お料理、ああ、忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい 兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい 兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 母: まぁまぁ、この子ったら、こ・ど・も、ね 兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 母: そう、子どもはフルーチェ、好きよね 兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 母: そう、ママもあなたのこと、だあい好き! 兎: … 母: そう、ママ、あなたのママになるのね リコ: …いこっか 女: …うん ※リコ、女下手へ。リコ、兎、退場。 母: ねー、みっちゃん、こっちがシヴァね、シヴァは最強なの!ばきっぐっしゃっどっ かーん!!ぐちょ。リンガの滅びのダンスで世界が終わりましたー宇宙ぼーん… でもね、シヴァは破壊と再生の神様だから、一度全部壊して、また作り直すの… うーん、みっちゃんにはまだわかんないかなー 女: 好きよ、私、お母さんのこと、好き、大好き 母: そう、ママもみっちゃんのこと、だあい好き! 女: ねぇお母さん 母: なぁに 女: ねぇ 母: なぁに 女: … 母: あら、どこに行っちゃったのかしら? ※♪トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン 女、死刑台へ。 ♪「私とかくれんぼ2回目」 そのうち、ひょっと、頭を無くして 私はだれやら、貴方はだれやら ここはどこやら、彷徨いくれる ピアノをひけば長調が短調に 蝶々が丹頂鶴に 仕方がないものだから ああ、南無さんで、ぐるっと一回転 さてはて、私の頭は、どこのっかった ※女、兎の頭を被って裁判長席に、頭を外して木槌を鳴らす。 女: 第2189回人形裁判、判決!死刑!! ——-
『人形の家』上演台本+アンケート
『人形の家』
作・演出 井上新蔵
人形の家
女
リコ
母
兎
※上手に母、背を向けて台所仕事をしている。下手には、箱に座った兎と、箱に倒れているリコ。下手から、女。兎、木槌を鳴らす。
母: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
女: 別に、どうってこともない、毎日毎日、繰り返す日々…たいしたこともない、
面白みのない、ただ、なんとなく、視界が、世界が狭いような、
バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないような、私には、関係がない…
母: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン…お料理、お料理、ああ、
忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい
女: …ただいま
母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ
る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい。
女: おやつって、もう9時だってのに…子どもじゃないんだから、いらない
母: まぁまぁ、この子ったら、子ども部屋で暮らしてるうちはこ・ど・も、よ。
あなたのお部屋、ちょっとは片づけなさいね、おもちゃに、お人形に…ほら、
なんていったかしら?あなたのおきにいりの、赤い屋根のお家の、どこに行くにも
いつも一緒だった、あの子…そうそう、リコちゃん!
※リコ、ぴょこっと動く。
女: 嫌な言い方、片付けるわよ、そのうち
母: そう、片付けるの
女: でも、今日はもう疲れてるから
母: そう、疲れてるのよね
女: だから、家でくらい、好きにさせてよ
母: そう、好きにしたいのよね、好きに
※女、中央の椅子に座る。
♪テープを巻き戻すようなねじれの音。リコ、母、回転しながら着席。
兎: (木槌を鳴らす)これよりぃいいい!第2186回ぃ!!人形裁判をぉおおお!!!
始める!!!!
女: 人形裁判?
兎: ぼうと…冒頭…冒頭ちん…冒頭ちんじゅちゅ!!
母・リコ:ちんじゅちゅ、ちんじゅちゅ?(ヒソヒソと話す)
※兎、木槌を鳴らす
母: 被告人、みっちゃんは、令和8年〇月〇日午後〇時〇分ころ、自宅台所において、
母手作りのおやつであるフルーチェを蔑ろにし、自身の子ども部屋に引きこもった
ものである。罪名及び罰条、フルーチェの尊厳及び冷蔵庫での保存環境維持等に関する法律第66条違反、フルーチェの遺棄によりこれを死傷させる行為等の処罰に関する法律第6条。以上であります
女: ないでしょ、そんな法律!!
兎: あなたには黙秘権があります
女: バカみたい、一体なんなのよ
兎: 発言の内容は、あなたに有利なことも不利なことも、すべて証拠として使われます
女: どうだっていいわよ…フルーチェ食べなかったのが罪?
母: 証拠写真をご覧ください
女: 冷蔵庫?
母: 被害者の最後の姿です
女: ただの冷えてるフルーチェじゃない!
兎: びいいいいん!!ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…
女: なによ
母: でたわ!裁判長の降霊術よ!
リコ: 被害者の魂が裁判長に!!
兎: ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…僕は、フルーチェ…た、べ、てよぉ…た、べ、て、
ほしかったよぉお…ガクッ
母: ううっ
リコ: かわいそうに
女: フルーチェ!食べ物でしょ!!魂ないでしょ!!
母: 裁判長!差別発言です
兎: この、ご時世に!!
女: あーもううっさい!
リコ: 裁判長、このように、被告人は心神喪失の状態にあり、刑事責任能力はありません
兎: そのようにも見えますね
女: バカにしてる
兎: バカにしてる?
女: だいたい、私、フルーチェ嫌いなのよ
リコ・母:おお…!
女: 甘すぎるし、ドロドロしてるし
兎: 被告人、これ以上フルーチェの人権を侵す発言は、やめなさい!
女: そもそも、あれ、何?デザートなの?
兎: 被告人!
女: なんで固まるの?中途半端でぐちゃぐちゃで、気持ちが悪い…
※リコ、女の口を塞ぐ
母: 裁判長!ただいまの発言のとおり、被告はフルーチェを貶め、一切の反省もありま
せん!犯行は計画的で残虐であり、被害者の遺族も処罰を望んでいます。
以上の点から、被告人を死刑に処するのが相当であると考えます!!
兎: 弁護人、何かありますか
リコ: 裁判長…無罪です!
兎: (木槌を鳴らす)第2186回人形裁判、判決!死刑!!
※兎、母、退場。
リコ: ばかね、死刑になっちゃった
女: 死刑?
リコ: そうよ、死刑、あなた、死刑、わかる?
女: バカにしないでよ
リコ: どうして?あ、もしかして、死にたい人?あなた、死にたい人?
女: 死にたかないわよ、多分…でも
リコ: でも?でもやっぱり、死にたい?
女: どうだろう…もしかしたら、もう死んでいるのかもしれない
リコ: でも、ここにいるわ
女: 私、ずっと、どこにもいないの。いつも、なんとなく、視界が、世界が狭いよう
な、バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないような、私には、関係がない…
リコ:いるわよ、ここに
女: そういうことじゃなくて
リコ: なんで?じゃあ、あなた、なんで、ここにいるの?
女: え?
リコ: あたし、リコちゃん。あたしは、ずっと、ここにいるわ
【リコ】
※兎、出て木槌を鳴らす。母、出て上手で背を向けて台所仕事をしている。
母: (木槌の音に重ねて)トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン…
お料理、お料理、ああ、忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい
リコ: あらいやだ、ママったら!あたし、リコよ、リコちゃん!
母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ
る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい。
リコ: フルーチェですって!ああ、フルーチェ!!なんて素敵な日なの、もしかし
て、今日はリコの誕生日だったのかしらん、それとも国民の祝日?
ママ、だあい好き!!
母: まぁまぁ、この子ったら、こ・ど・も、ね
リコ: そうよ、リコは永遠の11歳、小学五年生だもの!こ・ど・も、よ!
母: そう、子どもはフルーチェ、好きよね
リコ: 好きよ、ママの次に、だあい好き!リコ、ママ、だあい好き!!
母: そう、ママもリコちゃんのこと、だあい好き!
リコ: だから、ママ、リコのママになってくれる?
母: そう、ママ、リコちゃんのママになるのね
女: え?
※♪テープを巻き戻すようなねじれの音。リコ、母、停止。
兎: (木槌を鳴らす)さて、いかがです?なかなか、いい感じじゃないですか?
女: そんなの、ずるい
兎: ずるい?
女: 私、あんなじゃ
兎: ああ
女: あんな、バカみたいに
兎: じゃあ、やり直します?
女: え?
兎: 被告人、何かありますか
リコ: そんなぁ!裁判長…あたし、無罪です!
兎: (木槌を鳴らす)判決!死刑!!
※兎、母、退場。
リコ: ばかね、死刑になっちゃった
女: 死刑?
リコ: そうよ、死刑、あたし、死刑になっちゃった。わかる?
女: あなたが、死刑?
リコ: そうよ!あ、もしかして、死にたい人?あなた、死にたい人?
女: 死にたかないわよ、多分…でも
リコ: でも?ちょっと、はっきりしてよ
女: どうだろう…もしかしたら、もう死んでいるのかもしれない
リコ: まるで他人事ね
女: そう、他人事みたいに…私、ずっと、どこにもいないの。いつも、なんとなく、
視界が、世界が狭いような、バカみたいに、薄っぺらくて、私には関係ないよう
な、私には、関係がない…
リコ: ああ
女: わかる?
リコ: じゃあ、あなた、きっといないのよ
女: …
リコ: あなた、いないのよ
女: …
リコ: あたし、リコちゃん。あたしは、ずっと、ここにいるわ。あなたは、あら、
どこに行っちゃったのかしら?
女: …どうして私ばかり裁かれるの?
※女、兎を見る。
兎: 私もね、死刑だったんです。第88回人形裁判、第188回人形裁判、
第288回人形裁判、そこから18回、全部、死刑
女: じゃあどうして生きてるの
兎: 逃げました
女: え?
兎: 私、逃げたんです
女: どこに?
兎: 裁判長席に
女: 裁判長なら、死刑をやめてよ
兎: それはできません
女: どうしてよ
兎: だって裁判長ですから
女: …
兎: 裁判長が、死刑をやめたら、なんになると思いますか
女: え?
兎: ただの、兎です。ピーターラビットでも、ミッフィーでも、マイメロディですら
ない、ただの、ピンクの兎です。気味が悪いでしょう?…そう、気味が悪い…
(木槌を叩く)第2188回人形裁判、被告、私、判決!死刑!!
※♪「Entry of the Gladiators」リコ、母、兎、順に振り向き、手に頭を持っている。
曲にあわせてお互いの頭を被せあう。
女: ねぇ、私、どこ?ねぇ、ねえったら!
リコ: あなたの名前、なんだっけ?
女: …みっちゃん?
兎: 本名は?
女: …
兎: 本当の、名前は?苗字と、名前
女: だから、みっちゃん…私の名前…名前、なんだっけ?
母: みっちゃん!
リコ: みっちゃん!!
兎: みっちゃん!!!
※女、母、リコ、兎、退場。兎出てきて。
兎: みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん⋯みっちゃんって、誰なんでしょう?
ひょっとしてあなたが、みっちゃん?ああ、もしかして、こちらが、みっちゃん。いや、しかし、あなたがみっちゃんで、私がみっちゃんでない、とも言い切れない。私は、本当に、私、なんでしょうか?あなたは、ひょっとして…
♪「私とかくれんぼ」
私のクニではこのごろ
他所様の頭が大流行
ちょっと他所様をのせてはみては
やれそれ、あれこれ、どうだのこうだの
他所様の頭で考え遊ぶ
そのうち、ひょっと、頭を無くして
私はだれやら、貴方はだれやら
ここはどこやら、彷徨いくれる
ピアノをひけば長調が短調に
蝶々が丹頂鶴に
仕方がないものだから
ああ、南無さんで、ぐるっと一回転
さてはて、私の頭は、どこのっかった
【兎】
※兎、出て木槌を鳴らす。母、出て上手で背を向けて台所仕事をしている。
母: (木槌の音に重ねて)トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン…
お料理、お料理、ああ、忙しい、忙しい。あら、みっちゃん、おかえりなさい
兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
母: おやつ、冷蔵庫にフルーチェ、ぷる、ぷる、ぷる、ぷる…ぷる、ぷる、ぷる、ぷ
る…フルーチェ、フルーチェ、ああ、忙しい、忙しい
兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
母: まぁまぁ、この子ったら、こ・ど・も、ね
兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
母: そう、子どもはフルーチェ、好きよね
兎: トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
母: そう、ママもあなたのこと、だあい好き!
兎: …
母: そう、ママ、あなたのママになるのね
リコ: …いこっか
女: …うん
※リコ、女下手へ。リコ、兎、退場。
母: ねー、みっちゃん、こっちがシヴァね、シヴァは最強なの!ばきっぐっしゃっどっ
かーん!!ぐちょ。リンガの滅びのダンスで世界が終わりましたー宇宙ぼーん…
でもね、シヴァは破壊と再生の神様だから、一度全部壊して、また作り直すの…
うーん、みっちゃんにはまだわかんないかなー
女: 好きよ、私、お母さんのこと、好き、大好き
母: そう、ママもみっちゃんのこと、だあい好き!
女: ねぇお母さん
母: なぁに
女: ねぇ
母: なぁに
女: …
母: あら、どこに行っちゃったのかしら?
※♪トン、トン…トン、トン…トン、トン…トン、トン
女、死刑台へ。
♪「私とかくれんぼ2回目」
そのうち、ひょっと、頭を無くして
私はだれやら、貴方はだれやら
ここはどこやら、彷徨いくれる
ピアノをひけば長調が短調に
蝶々が丹頂鶴に
仕方がないものだから
ああ、南無さんで、ぐるっと一回転
さてはて、私の頭は、どこのっかった
※女、兎の頭を被って裁判長席に、頭を外して木槌を鳴らす。
女: 第2189回人形裁判、判決!死刑!!
——-