アイランド〜愛乱れる土地(成田市演劇祭2024Ver.)

<第1場:大事なものは全てパンツへ>

※舞台中央には島。大きいのと小さいのが並んで座っている。大きいののやや後方に、赤いラジオ。大きいのはオレンジの帽子をかぶり、顔には丸メガネ、肩にラジオ。小さいのは赤い帽子にファンシーなサングラスをつけている。

大:うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!ひろいなぁー、ひろいなぁ!おっきいなぁ!この野郎!!

小:それは、小さな小さな島でした。島、と言うにはあまりに小さい、小さすぎる、人ひとりが座るのが精一杯の、ささやかな、足場のようなものでした

大:ねぇアイちゃん。今何時だい?

ラ:ただ今の時刻は午後2時15分です。今日もよい一日を!

大:今日もよい一日を!うん、うんうん、ほんとにいい一日だといいよね!いい一日は、いいね!

※波の音

大:うーみーは、ひろいーな、おっきーいなぁー…んん!隊長、2時の方向に何やら漂流物!…(指で方向を確認し)嘘です!10時の方向に漂流物発見!確保します!

♪:後ろから前から

大:(バランスをとりながら立ち上がり)アイちゃん、ちょーっとアンテナ使うね!

ラ:後ろから前から、どうぞ。後ろから前から、どうぞ…(回りながら踊る)

※大きいの、ラジオのアンテナを引き抜き、流れてくるものをこちらへ寄せる。

大:よしよし、何が出るかな?何が出るかな?ふんふんふんふん…パンツだぁ!アイちゃん、見てよ!パンツが流れてきたよ!

ラ:パンツには二つの意味があります。一つ目は、ズボン。二つ目は短い下穿きです

大:パンツ!大事だもんなぁ、パンツ!これがあれば宝物をしまえるもんなぁ。大事なものはすべてパンツへ…

※暗転。

<第2場:サンタフェ>

※小さいの、パンツを履いて座っている。大きいの、アンテナを持ちバランスをとりながら漂流物を引き寄せている。

大:なになに、お、本か。こいつは…ああー、これはーははぁ…

小:ねぇ

大:えっ

小:ねぇ、それ、どんな本

大:どんなって…サンタフェ?(本の中を見る)だめだ、アイちゃんには見せらんないな(小さいのから遠ざかり)

ラ:サンタフェは、アメリカ合衆国ニューメキシコ州の州都。また、そこで撮影された宮沢りえのヌード写真集です

大:芸術かーわいせつかーってやつよ。サンタフェっていうから、クリスマスの本かと思ったんだけども。なんか、まぁ、宗教ってやつの本だわ。(本を流す)いい人に拾われるんだぞ(舞台中央へ戻る)

※島が軋む音。

大:お…ととと。アイちゃん、しっかりつかまって!

ラ:気をしっかり持ってください

大:……(ラジオを見る)

小:もう、いやだ!なんで揺れるの?なんで、つかまってなきゃいけないの?

大:だって、島だもの!つかまってなきゃ落っこちちゃうでしょ?

小:シマってなに!

大:えっ!島ってのは、その…アイちゃん、島ってなに?

ラ:シマとは、周囲が水で囲まれている陸地を指します

大:そうそう!

ラ:また、ある仲間内の勢力範囲という意味があります

大:えっ!どういうこと??

ラ:おうおう、威勢がええのう!けどなぁ、よその組のシマに手ェ出したらしまいじゃ、きっちり落とし前つけてもらうけぇノォ!!

大:アイちゃん!?

ラ:どちらのシマも、はみ出したら、沈められます。

小:沈められちゃうの!?

ラ:お後がよろしいようで

大:沈めないよ!いや、沈まないように、しっかりつかまっているんだよ。俺も、しっかり捕まえてるから大丈夫だから

小:大丈夫?

大:そう、大丈夫!だから、今日も安心して眠って!アイちゃん、おやすみ!

ラ:ただ今の時刻は午後8時55分です。おやすみなさい

※ラジオ、「二人のアイランド」の間奏を弾く。
暗転。波の音。大きいのにスポット。

大:眠った?アイちゃん、眠ったかしら?

ラ:ただ今の時刻は午前2時です。草木も眠る、丑三つ時です

小:……

大:よしよし、じゃあ今夜もアレ頼むよ、アイちゃん

ラ:ちょっとだけ、ですよ。アンタも好きネ

♪後ろから前から

※:大きいのがラジオの手を取り、小さいのから離れ舞台上手後方へ。
幕が引かれ怪しい雰囲気に。踊るラジオと大きいのの影。

大:アイちゃん!アイちゃーん!!

ラ:ちょっと、長すぎますね

大:そんな!もう一回!もう一回だけ!!

ラ:その機能には対応していません

大:アイちゃん!あいちゃーん!!

※小さいの、ラジオと大きいのを見る。音楽が大きくなり、暗転。

<第3場:主に腰を振っています>

※大きいの、立っている。小さいの、座っている。

♪:夢の中へ

大:ねぇアイちゃん。今何時だい?

ラ:ただ今の時刻は午前8時45分です。いってらっしゃい!

大:いってらっしゃいったって、この島から出らんないのにどこいきゃいいのよ、え、アイちゃん(欠伸)

ラ:とても、眠たそうですね

小:すごく、眠そう

大:ちょっとねー、昨晩はねー、頑張りすぎちゃったかしら…ねー。アイちゃん、眠気覚ましにラジオ付けてよ。いつもの、右22度、左38度

ラ:ラジオのスイッチを、オンにします。(乳首のダイヤルをひねり)あ~ん、ああ〜ん

※音楽、大きくなり

大:……

小:…眠った?眠って、るよね?

ラ:うふっふーうふっふー

小:…アイちゃん、止めて

※音楽が止まる。

小:アイちゃん、昨晩のことだけど。ううん、毎晩毎晩、私が寝た後のことなんだけど…あの人、いったい何をやっているの?

ラ:質問の意味が分かりません

小:毎日午前2時に、あの人、何をやっているの?

ラ:こんな答えが見つかりました。主に、私に向かって、腰を振っています

※暗転。音楽が再び大きくなりFO。

<第4場:ぜんぜん埋まらない>

大:ねぇアイちゃん。今何時だい?

※大きいのにスポット。

ラ:……

大:アイちゃん?…(あたりを見回すが、誰もいない)そうかーこれ夢だわ。俺、夢の中にいってきますしちゃってるんだわ(一歩、島から踏み出し、そのまま歩き回る)
夢だもの!なんだってできるんだもの!どこにだっていけるんだもの!
水上歩行!…安心しなさい。わたしだ。恐れることはない!(じっと島の方を見つめる)

大:小さな小さなこの島は、俺たちを乗せるので精一杯だ。なんとか島を広げようと、いろんなものを海に沈めてみた。だけど、ぜんぜん、埋まらない。大きな海に、ぽちゃんぽちゃんと沈むばかりだ。このままじゃ、いずれ重くなる。重くて、沈んでしまう。

俺は一度だけ、海に落ちたことがある。あの時は、このまま沈むんだと思った。この海ってやつは、とんでもなく深いんだ。ずっとずっと下の方は、そうだこんなふうに暗くて何も見えやしない。俺、泳げないからさ、っていうか泳いだことないからさ、海の中で、ああ、もうだめだぁって思った。そしたらさ、見たんだよ。

そこには、でっかい顔があった。どんだけでかいかって、顔のでかさが(手を広げる)。そいつは、頭に、これまたでっかいたんこぶがあった。俺は、俺が島だと思ってたのは、そいつのたんこぶだったんだ。

なんか、そいつの頭…この島には、周りにブツブツした石みたいなのがたくさんあってさ、俺はもがいて、もがいて、なんとかそのブツブツに手をかけた、必死でつかまった。ああ、これで、助かったって、まだ沈まないで済むって

※大きいの、流れてきたものを拾う。

大:成田高等学校付属中学校、旅のしおり…

ラ:…修学旅行2日目。11月2日、午前8:30 旅館出発 バスにて東大寺へ。奈良の大仏を見る。法華堂を見学後、昼食まで自由時間…

大:ああっ!俺こいつ、知ってる!ブツブツの頭の、でかい、確か、奈良の大仏ってんだ!大仏ってのはよくわかんないけど、多分、でかいブツブツって意味だろ。だから、多分こいつは、デカいブツブツがついた、奈良って名前のやつなんだな。俺たちは、奈良、に乗ってたんだ!

♪:【奈良に乗って】
海に浮かぶ島
日が暮れてディスコナイト
寄せては返す夢や希望は、ごめんね(ソーリー)、全部は乗せられない
ずいぶんと重くなったから 私じゃもう持ちきれない

だ・か・ら
奈良に乗っていこう 大きなブツブツ 気のいいあいつ GO GO
大乗仏教 大丈夫教 大丈夫今日 ら・ら・ら

海に浮かぶ島
日が昇ってパーリタイム
浮かんで沈む夢や希望は、サンキュー(ありがと)、全部を君にあげる
ずいぶんと重くなったから 私の分も君が運んで

だ・か・ら
奈良に乗っていこう 大きなブツブツ 気のいいあいつ GO GO
大乗仏教 大丈夫教 大丈夫今日 ら・ら・ら

<第5場:こんにちは、さようなら>

※小さいのと大きいの、立っている。

小:何か流れてきた

大:……(眠るように項垂れている)

小:ねえ!何か流れてきた!!

大:え?何?どこ?

小:何か流れてきた!アンテナ貸して!

大:アイちゃん?何、何見えない

ラ:(小さいのにアンテナを抜かれて)ああーん!

※小さいの、アンテナを使って流れてくるものをこちらへ寄せ、中を覗く。

小:何、これ

※大きいの、立ち上がり中を覗きそれをゆっくりと撫でる。

大:そうか、ここまで会いに来てくれたんだな。ありがとう。アイちゃん、送ってあげよう

※大きいの、モーツァルトの子守唄を歌う。流れてきたそれを、再び流し見送る。暗転。

<第6場:随分と重くなった>

※小さいのと大きいの、立っている。大きいのはアンテナにしがみついている。

小:うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!ひろいなぁー、ひろいなぁ!おっきいなぁ!

大:それは、小さな小さな島でした。島、と言うにはあまりに小さい、小さすぎる、人ひとりが座るのが精一杯の、ささやかな、足場のようなものでした

小:ねぇアイちゃん。今何時?

ラ:ただ今の時刻は午後2時15分です。今日もよい一日を!

小:今日もよい一日を!うん、うんうん、ほんとにいい一日だといいよね!いい一日は、いいね!

※波の音

小:あーあ、何か流れてこないかなぁ。何か…そう、びっくりするほど、素敵なもの、流れてこないかなぁ

※島が軋む音。

大:お…ととと。アイちゃん、しっかりつかまってる?

ラ:木を、しっかり持ってください

大:大丈夫!まだ、大丈夫!!

小:なんで、つかまってなきゃいけないの?

大:つかまってなきゃ落っこちちゃうでしょ?

小:落っこちちゃったら、どうなるの?

大:どうかなぁ…沈んじゃうのかなぁ

小:それだけ?

大:うん、それだけ。ね、アイちゃん!

ラ:沈む、には、いくつかの意味があります。水面上にあったものが水中に没する。 太陽・月などが、地平線・水平線より下へ移動する。暗い気持ちになる、落ち込む

小:…沈んじゃうの?

大:沈まないよ!いや、沈まないように、しっかりつかまっているんだよ。俺が、しっかり捕まえてるから大丈夫だから

小:大丈夫?

大:そう、大丈夫!だから、今日も安心して眠って!アイちゃん、おやすみ!

ラ:ただ今の時刻は午後9時55分です。おやすみなさい

※ラジオ、「二人のアイランド」の間奏を弾く。
舞台が暗くなり、大きいのだけに明かりが残る。

大:眠った?アイちゃん、眠ったかしら?

…一度だけ見た、奈良の顔、優しいような、厳しいような、誰かを乗せて、支えてやるさって覚悟、みたいな。そうさ、俺が支えてやるよ。うん、任しとけ!

※大きいの、羽ばたく。♪「かもめが飛んだ日」ゆっくりと暗転。水音。

<第7場:アイちゃん>

※島に、小さかったものだけが座っている。
オレンジの帽子が流れてくる。帽子を取ると、中には赤いラジオ。帽子をかぶり、ラジオをそっと抱き抱える。次第にあやすような動きへ。

小:よし、よし…小さいね、小さい…
きっと、まだ見えないよね。でも大丈夫、私が見てるから。まだ言葉、わからないよね。でも大丈夫、私がたくさん、たくさん話しかけるから。まだ立つことも座ることもできないあなたが、落っこちないように、私がしっかりつかまえておくから、大丈夫、大丈夫(ラジオを肩に載せる)

ありがとう…私のところに来てくれて、私のところに居てくれて、ありがとう

なぜ、私の目が開いたとき、あなたの目は見えないのか。私が言葉を覚えたとき、あなたの耳は聞こえない。私が自分を知ったとき、あなたは自分が誰かも分からない。私が手を伸ばすとき、あなたにはもう、触れられない

私たちは、何をしているのか、自分じゃわからない

そうだ、名前…うーん、名前って、私ほかに知らなくて…アイ、ちゃん?アイちゃん、うん、アイちゃん、アイちゃん!(名を呼びながら、あやす)

ラ:……

小:アイちゃん?

ラ:……

小:アイちゃん!何か話して、ねぇ、アイちゃん!!

ラ:アイちゃんに、2918件のメッセージがあります

小:アイちゃん?…アイちゃんは、あなたでしょう?

ラ:私はアイちゃんですAIのアイちゃんです。あなたも、アイちゃんです

小:……!!!

♪:【ふたりの愛ランド】
※上手から大きいの登場。

大:アイちゃーん!!
あのね、今日はアイちゃんに、歌を聞いてもらいたいと思って!たくさん練習しました!聞いてください!!「ふたりの愛ランド」(歌いながら、ラジオと腰振りダンス)

(1:43からセリフ)

おはよう、アイちゃん!今日もいい日かな?いい日は、いいね!

おやすみ、アイちゃん!いい夢を!

アイちゃん、今日はご機嫌ななめ?え、恋人と喧嘩した?まぁ少し冷静になろうよ、怒ってる時って、ろくでもないことしか考えないのよ。そうだ!そんな時は海に向かって叫ぶといいよ!

寂しくないよ、寂しくないアイちゃんは、寂しくない

(2:24から歌い出す)

ラ:メッセージが長すぎたため、ここで録音を終了しています。メモリを初期化しますか?

小:ううん、まだ、消さないで。私の声を残す時まで

※波の音。

うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!うーみーはっひろいーなっ、おっきーいなぁー!ひろいなぁー、ひろいなぁ!おっきいなぁ!

ラ:それは、小さな小さな島でした。島、と言うにはあまりに小さい、小さすぎる、人ひとりが座るのが精一杯の、ささやかな、足場のようなものでした

小:ねぇアイちゃん。今何時?

ラ:ただ今の時刻は午後2時15分です。今日もよい一日を!

小:今日もよい一日を!うん、うんうん、ほんとにいい一日だといいよね!いい一日は、いいね!

※波の音。